「反則王のリベンジ」
決勝戦までは時間があるみたいなので、一度ジムに戻って体勢を整える。
ヤーナ
••••••何にせよ、今は試合に勝つことが最優先だ。
一度、ジムに戻って備えるとしようか。
意外とジムまで遠いんだよね。
もっとエーテライトから近いところにしようやw
ヤーナ
さあ、入ろうか。
ふたりの闘士が引退を決意してくれたこと、きっとネユニも喜んでくれるだろう。
ジムに入ると、何やら焦った様子でネユニが走り込んできた。
ネユニ
たいへん、たいへん!
とにかく、これを見て••••••!
ネユニの指さす先に映った映像にはブルートボンバーの姿が。
ブルートボンバー
この店にある強力な魔物の魂を、ありったけよこしやがれっ!
メテム
おおっと、ブルートボンバーが違法な魂資源に手を出すようだ!
しかも、複数種類の魔物の魂を注入するだなんて、過剰に肉体が変異しかねない危険行為だぞォ!
失格処分、失格処分だァー!
テレビカメラを率いたメテムが糾弾する。
なんか芝居くさいメテム。
ブルートボンバー
うるせぇ!
邪魔すんじゃねぇ!
熱くなったブルートボンバーはこんな程度では止められない。
渾身の右ストレートがメテムを襲った。
ブルートボンバー
おいっ、見てるか生身の挑戦者!
今度こそテメェをぶっ飛ばしてやるから、第八層建設区域まで来やがれっ!!
さにすとに対し啖呵を切って見せ、中継カメラまでも破壊した。
ヤーナ
あのバカッ!
真実を伝えたはずなのに、なんでそんな無茶を••••••!?
ネユニ
実を言うと••••••ブルートボンバーさんが試合で行ってきたドーピングは、害のない演出上のものでしかありませんでした。
え、そうなん?www
さにすと側は増強剤だったわけだけどww
レフェリーが失格と言いながらも、試合を続行させたでしょう?
でも、別種の魔物の魂を同時に複数注入することは、アルカディアでも本当に禁止されている危険行為なんです。
なぜなら、メテムさんが言っていたように、肉体の変異が過剰に進行してしまうから••••••。
最悪、人の姿に戻れず、そのまま亡くなってしまいます。
おそらく、魔物の魂が肉体だけでなく、人の魂に侵食することで、一気に魂触症が進むのでしょう。
まあ1つの魂を使い続けると魂触症になるわけだから、いろんな強い魂を一気に使うとそら拍車かかるわな。
ジムの扉が勢いよく開くと、先ほどの中継で殴られていたメテムが走り込んできた。
メテム
か、確認したいことがある••••••!
あれほど止めたのに••••••キミたち魂触症のことを、彼に、ブルートボンバーに伝えたんだな!?
ヤーナ
あ、ああ。
とても放っておけなくてさ••••••。
メテム
あろうことか、彼はオーナーに相談してしまったんだよ。
当然のように魂触症の存在は否定され、ブルートボンバーも、それを疑うことなく信じた。
まあオーナーの方が信頼にたる存在だったんだろうな。
仕方ない話だよ。
さらにだ、中継を見て知ってるかもしれないが••••••オーナーはブルートボンバーに、キミと再戦する機会を与えたんだ。
それも、今のままじゃ勝てないだろうと、複数の魔物の魂を使うことを条件にね。
オーナーやばいやつじゃんw
面白くなると思ったら人の命もお構いなしってことか。
違法な魂資源だとか何とか、あの中継は全部筋書きのある演出だ!
場外戦というテイで、強化したブルートボンバーを当て、キミを排除しようというオーナーの企みなんだよ!
あの中継、やっぱりヤラセだったんだww
迫真の演技見せたのに、殴られてメテムさんかわいそうw
ヤーナ
そ、そんな••••••ブルートボンバーは、すでに魂触症を発症してるんだ!
絶対に無事じゃ済まないよ!
メテム
ワタシも止めようとしたが、ブルートボンバーは聞く耳を持たないし••••••なにより、アルカディアではオーナーの命令が絶対だ。
試合は間違いなく強行される。
キミが棄権して、約束の場所に現れなかったら、彼が複数の魔物の魂を注入して、襲撃してくるかもしれない。
そんなヘイト稼いだつもりはないんだけどなw
勝手に恨まれて、損な役回りだよ、まったく。
なぁ、キミの目的は、統一王者となって魂資源のすべてを解放することだろう?
こうなった以上、もう後戻りはできないんだ。
試合の準備を整えて、アルカディア•ソサエティの前まで来てくれ!
「アルカディアの運転手」が、キミを試合場まで送迎する!
そう伝えるとメテムはそそくさと走り去ってしまった。
どこまでがオーナーの思惑通りなのか、さっきの中継もヤラセなわけで、ブルートボンバーとの再戦を煽るように筋道が立てられた煽りをメテムはさにすとにやってきた、とみることもできる。
あいつ、こっち側の顔してオーナー側の可能性も大いにあるよね。
ヤーナ
私も一緒に行くよ!
魂触症について伝えたことが事態を引き起こしてるなら、安全なところで待ってなんかいられない!
来てもいいけど、足引っ張んなよ?
ーネユニ
どうか、ブルートボンバーさんを止めてください!
アルカディア•ソサエティの前に車が1台準備されていた。
ーメテム
さぁ、試合の準備が整ったら、「アルカディアの運転手」に声をかけてくれ!
ーヤーナ
急ごう、さにすと!
中継は仕組まれたものとはいえ、宣戦布告したのは本気のはずだ。
応じるまで、あいつは無茶を重ねるに違いない••••••!
アルカディアの運転手
お待ちしておりました。
場外戦が行われるのは第八層建設区域••••••私がエアスピナーでお送りさせていただきます。
建設区域ってことは未完成のとこちゃうん?って思いながら乗車。
着いた場所はまさに闘技場の様相をしていた。
中継カメラもしっかり存在していた。
これは完全に興行である。
ヤーナ
ブルートボンバー!
こんなことは止めるんだ、アンタの命が危なくなる••••••!
この場面での正論は意味をなさない。
ブルートボンバー
へっ、危ないから止めろだと••••••俺様を誰だと思ってる?
卑怯千万、極悪非道なラフファイトでならしてきた、爆ぜる悪意、ブルートボンバー様だぞ!
反則上等だ!
勝つためなら、何だってやってやらぁ••••••!!
ヤーナ
待て••••••!
ヤーナの静止も虚しく、ブルートボンバーのレギュレーターが起動する。
これまでの対戦よりもひどく激しく。
赤い衣から解き放たれたその身体は、ブルートボンバーのそれを成してなかった。
メテム
ななな、なんとォーーー!
複数の魔物の魂を注入した、ブルートボンバー、もはや、人の形を成していない!
この禍々しい姿は、言うなれば••••••ブルートアボミネーターだァーーー!
お前、ネーミング用意してたやろw
やっぱあっち側じゃねーか
名言残そうとする実況はマジで冷めるからやめろ。
き、危険すぎる!
我々は離れて見守ろう••••••!
煽るだけ煽って颯爽と逃げていくメテムくん。
ヤーナ
そんな••••••!
私だって、今くらいは!
おい、バカお前!
お前もギリギリって言ってたやんか!
さにすとが怒りに任せてレギュレーターを使いそうになったヤーナを静止する。
ヤーナ
さにすと••••••!
••••••ごめん。
ブルートボンバーの奴を、どうか••••••ぶん殴ってでも、止めてやってくれ••••••!
そうするしかなさそうだな。
お前とメテムは下がっておれ。
無事暴走したブルートボンバーあらためブルートアボミネーターを倒した。
いつものようにレギュレーターが解除され、ブルートボンバーは元の姿に戻らない。
ヤーナ
ダメだ••••••あいつは、もう••••••。
魂触症が急速に悪化したんだ。
それで••••••そのまま••••••。
死んだ?
メテム
試合の終了と同時に、中継は切られているよ。
オーナーの指示によって••••••本当にマズいものは、観客に見せないようにね。
どういう中継になってるんやw
勝利者インタビュー抜きで観客は納得いくんか!?
魂触症の情報を漏らしたことで、オーナーは激怒している。
ワタシから、なんとか取りなしてみようと思うが、効果は期待しないでほしい••••••。
お前ずっとこっち側みたいな空気感出してるけど、正直疑ってるからな?
ブルートボンバーの家にいたクァールの妖獣がなぜかいて、ブルートボンバーに向かって走っていった。
が、上から崩壊した鉄屑が降ってきた、と思いきや二つに割れた。
ハウリングブレードが真っ二つに切って見せたのだ。
お前が連れてきたんか。
んで危機を演出していいやつ気取りってわけか!
クァールの妖獣がブルートボンバーに呼びかけるも、反応なし。
ハウリングブレード
まさか••••••キミが先に逝ってしまうなんてね••••••。
幼馴染の突然の死に涙を見せる。
ボクもすぐにいくよ••••••。
ヤーナ
アンタ、もしかして••••••?
ハウリングブレード
うん、ボクも同じ症状が出ていたんだ。
何か悪い病気だろうと薄々感づいていたけど••••••キミたちの話を盗み聞きさせてもらって、はっきりした。
ボクも魂触症を発症してるってね。
キミの姉さんも、同じころに症状が出始めたんだ。
彼女は何も言わずにアルカディアから去ってしまったけど••••••きっと病気のことを知って、抗おうとしたのだろう。
でも、ボクは受け入れることにした。
さにすとは障壁の外から来たそうだね。
だったら、魂資源によって死が回避されていた、この国を異様に感じたんじゃないか。
レギュレーターを着けずに育ったボクも、同じような居心地の悪さを感じていたんだ。
緊張感のない、ぬるま湯の中で生きている、そんな気持ちさ。
ガバメントから斡旋される仕事はつまらないし、障壁に囲われたこの国からは逃げることもできない。
グレた理由は政治ですか。
言い訳があるって幸せな話ですね。
でも、アルカディアで闘うことだけは楽しかった。
ボクもブルートボンバーと同じで、闘士「ハウリングブレード」という生き方がすべてなんだ。
その代償が魂触症による死だとしたら••••••おとなしく受け入れて、闘い続ける覚悟だよ。
もう諦めの境地ってことだろうな。
闘士をやめても行き先がないんだから、闘士で死のうってことなんでしょう。
浅はかだな。
••••••おいで。
クァールの妖獣にとってはあらぬ姿になったブルートボンバーでもブルートボンバーを認識しているんだな。
ヤーナ
なんで、そんなに簡単に死を受け入れるんだよ••••••。
死を受け入れるっていうより、闘士でない自分を考えられない、考えるのもめんどくさいって感じなんだろうね。
後味の悪い感じになってしまったが、ジムに戻って情報整理を行う。
ブルートボンバーについての報道などがどうなってるかとかも気になるしね。
ヤーナ
クソッ!
なんで、なんでだよッ••••••!
ジムに戻ってもヤーナは悔しさを滲ませる。
自分がちゃんと説得できていれば失わずに済んだ命、とでも思っているのだろう。
••••••取り乱してすまない。
命懸けでブルートボンバーを止めようとしてくれて、本当に、ありがとう••••••。
ブルートボンバーの遺体はアルカディアに回収されていって、彼は敗北を機に引退して去ったことにされたよ。
何もなかったことにする、オーナーの汚い手口さ。
だから、当然クルーザー級の試合も継続される。
ただ、場外戦があった関係で、王者との試合までもう少しかかるそうだ。
ところで、ネユニがいないけど、どこに行ったのかな••••••?
あー、まずい展開だこれ。
誘拐されてるやつだw
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