「積み重なる時間」
シューニェ
いらっしゃい、さにすと。
いつも気にかけてくださって、ありがとうございます。
・・・・・・前回の、ワポタとの一件について覚えていますか?
あれから、ウヴロの様子がちょっとおかしくて。
気にする必要はないと言ったはずなんですが、私の過去を聞いてしまったことへの詫びのつもりなのか、すさまじい勢いで働いてるんですよ。
おかげで、あなたに頼む仕事がないんですよねぇ。
ウヴロ
だったら、今日は例の・・・・・・「蒼碧の花弁」について、一緒に調べてみないか?
シューニェ
・・・・・・もしやあなた、さにすとが来たらそう誘うつもりで、仕事を前倒しに?
ウヴロ
まあ、その意図がなかったわけじゃない。
少しばかり思いついたことがあってな。
集落の跡地に落ちていたという、あの「花弁」・・・・・・。
シューニェはそれを、隕石が落ちた証拠だと考えているものの、断定まではできずにいる。
・・・・・・正直なところ、俺には「花弁」と隕石がどう結びつくのか想像もつかない。
だから、論理的に仮説を裏付けてやるようなことはできない。
だが、過去に隕石が落ちたとわかっている土地で、「蒼碧の花弁」と同じものを見つけたら?
両者に関係があるということを、示せるんじゃないか?
シューニェ
・・・・・・見つけられるとは思えませんよ。
私だって、これまで幾度となく、仕入れついでに「花弁」に似た品の情報を募ってきました。
でも、成果はなかった。
最初からそんなものは存在しないのかもしれないし、あったとて、宝石以上に見つけにくいものなんでしょう。
ウヴロ
だとしたら、なおさら今、探してみるべきだな。
なぜなら、さにすとと俺がいる。
この店の調達役の力量は、お前もよく知っているはずだ。
さにすと
諦めるにはまだ早い!
シューニェ
あなたまで・・・・・・。
・・・・・・わかりました。
では一度だけ、協力をお願いします。
トラル大陸には、過去に隕石が落ちたとされる場所がいくつかあります。
学術的な裏付けが取れているもののうち、最大の跡地とされるのが、セシュドロース・クレーターです。
とはいえ、跡地がそのままで残っているわけではありません。
その上に土が積もり、森が茂って、今ではヤクテル樹海と呼ばれています。
あなたのように高い技術を持った職人ならば、隕石衝突直後の地層を掘り出し、採集できるかもしれない。
そこに「蒼碧の花弁」と同じものが含まれていたら・・・・・・私の持つ知識と合わせて、断言できると思います。
「花弁」は、隕石によって発生したものだと。
ウヴロ
ならば、お互いにヤクテル樹海に向かって、それと思しき「深地層の断片」を採集してこよう。
―シューニェ
付き合わせて申し訳ありませんが・・・・・・頼りにしています。
ヤクテル樹海に向かって、隕石衝突直後のものと推定される、「深地層の断片」をいくらか採ってきてください。
シューニェ
すごい・・・・・・明らかに樹海表層の土とは異なる、岩状に固まった、古い地層だ・・・・・・。
それをこんなにも綺麗な形で採ってくるなんて・・・・・・。
感謝します、さにすと。
ウヴロが持ち帰ってくる分と合わせて、詳しく調べてみましょう。
ウヴロ
どうだった・・・・・・?
シューニェ
持ってきてもらった地層の断片の中に、ごく小さな蒼碧の粒子を見つけることができました。
光をあてた際の色味は、あの「花弁」と似ている気がします。
ですが、あまりに小さすぎる。
私の調べられる範囲では、あれらの粒子と「花弁」が同じものか判断がつきません。
ウヴロ
そうか・・・・・・。
だが、可能性があるものを見つけられたというのは朗報だ。
この作業を繰り返していれば、いずれ大きな塊だって出てくるかもしれない。
前にも言ったとおり、体力には自信があるぞ。
また行って、何度でも、古い地層を採集してこよう。
シューニェ
ウヴロ・・・・・・あなたは・・・・・・・・・・・・。
あなたは、どうしてそこまで熱心になれるんですか・・・・・・?
これは私個人の問題であって、シャトナ族を知るために必要なことじゃないでしょう。
ウヴロ
・・・・・・そうだな。
里のためになる働きかと問われれば、頷き難い。
ただ、ワポタが家族についていとおし気に語る姿や、お前が今も悲しんでいるのを見て、思った。
家族を大事に想う心に、シャトナ族もヴィエラ族もない。
もしも急に里のみんなを喪ったとしたら、俺は何としてでも、その原因を知ろうとするだろう。
突き止められなければ、己の無力を呪うに違いない・・・・・・。
お前だって、きっとそうだった。
だから、苦しい記憶しかなくても「花弁」を持ち続けている。
それが隕石と関係していると考えたのは、この店を長年やってきたからだと言っていた。
裏を返せば・・・・・・答えを探すために店を始めたのではないかと思ってな。
だとすれば、従業員としてこれほどやりがいのある仕事もない。
・・・・・・そうだろう、店主?
シューニェ
あなた、自分の旅については向こう見ずなのに、私のことはよく見ているんですねぇ・・・・・・素寒貧さん?
とりあえず、ヤクテル樹海の古い地層を片っ端から掘り返して持ってくるのはやめてください。
間違いなく怒られます。
もう少し、何か手がないか・・・・・・私も考えてみますから。
さにすとも、そのときが来たら、また手を貸してもらえますか?
ありがとうございます、本当に・・・・・・。
かくなる上はしっかり稼いで、お礼を用意しておかないといけませんねぇ。
―ウヴロ
俺も、ちゃんと給金はもらっているぞ。
家賃として少しシューニェに返した方がいいかとも思ったが、いらないと断られてしまった・・・・・・。
代わりに掃除と洗濯、そのほか家事諸々をやっている。
おかげで毎朝きちんと決まった時刻に店が開くようになったと、常連客にも褒められた次第だ。
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