「大きな巡りと、小さな人と」
シューニェ
ワポタに届ける商品をまとめました。
こちらをお持ちください。
彼女は「翼鏡の街」・・・・・・この街の居住区で暮らしています。
地図に印もつけておきますので。
ウヴロ
シューニェ、休憩を取るべきだというなら、さにすとと一緒に行ってきていいか?
邪魔にならないようにする。
シューニェ
それは休憩にならない気がしますが・・・・・・まあいいでしょう。
ふたりで配達、頼みましたよ。
ウヴロ
急に悪いな。
では、ワポタのもとへ向かおう。
―シューニェ
先ほどのワポタは怒っていましたが、普段の彼女は、朗らかで情に厚い人なんです。
あなたたちのことも、悪いように扱わないと思いますよ。
―ウヴロ
ワポタを見つけたぞ。
ひとまず商品を渡してしまおう。
ワポタ
あなたたち・・・・・・シャーニェの店の、新しい従業員ね。
もしかして、あの子にお使いを頼まれたのかしら?
・・・・・・確かに、私が頼んだもので間違いないわ。
でも、これほど新鮮な状態のものは初めて。
あなたたち、腕がいいのね。
ごめんなさい。
さっきの態度は失礼だったって、自分でも反省してるわ。
シューニェには、あとでお代を持っていきがてら謝っておく。
・・・・・・あの子のこと、これからも支えてやってね。
ウヴロ
あなたは、シューニェが店を畳むことを望んでいるようだった。
いつまで街に引きこもっているつもりだ、とも言っていた。
あれはどういう意味だったんだ?
最近は、都市で暮らすシャトナ族も珍しくないと聞いたが・・・・・・。
ワポタ
そっか・・・・・・どうも雰囲気が違うと思ったけれど、あなた、シャトナ族ではないのね。
シャトナ族は自然とともに生きることを尊び、その恵みが得やすい場所に、数名でまとまって暮らすわ。
いわば、小集落ね。
それを形成するのは女たち。
一方で男たたいは、集落から集落へと旅をするものなのよ。
繋がりの培い手としてね。
私たちは親子関係を中心として「家族」をつくる・・・・・・新たな子が生まれることで、その母親と父親も家族になったと考えるの。
母親と子どもは、独立するまで一緒に暮らすわ。
父親は旅を続けつつ、季節の廻りにあわせて、各地の家庭のもとに顔を出す・・・・・・。
大抵は「何、あんた来たの?」くらいの扱いだけどね。
しばらく一緒に過ごしてやるのよ。
その間は、うんと話すわ。
近況を伝えたり、ほかの土地の事情を聞いたり・・・・・・いろいろ。
シャトナ族は決まった本拠を持たないけれど、そうやって、まるでひとつの樹のように繋がってるってわけ。
ウヴロ
なるほど・・・・・・。
俺たちとは違ったやり方で、あなたたちもこの性質と向き合ってきたんだな。
とすると、シューニェも・・・・・・?
ワポタ
・・・・・・あの子もかつては旅人だった。
そして、北方の山岳地帯にある集落で、初めて家族を持ったのよ。
けれど、ちょうどあの子が離れている時期に、集落は突如として壊滅・・・・・・住民全員が亡くなった。
生存者がいないから、何が起きたのかはわからない。
ただ、集落があったはずの土地は大きく抉(えぐ)れ、焼け焦げ、それは酷い有様だったそうよ・・・・・・。
以来、シューニェは旅をやめてしまった。
事件から50年経った今も・・・・・・独りでこの街に留まったままだわ。
ウヴロ
ごじゅう、ねん・・・・・・・・・・・・?
待ってくれ・・・・・・シューニェは、今いくつだ・・・・・・?
ワポタ
あの子はトライヨラが建国した直後に生まれたから・・・・・・そろそろ80歳ってところじゃないかしら?
ウヴロ
やってしまった・・・・・・!
兄さんたちと違って圧がないから、てっきり同い年くらいかと・・・・・・。
俺は年長者になんて失礼な態度を・・・・・・そのうえ、許可もなくこんな、過去を探るような真似をして・・・・・・。
吊るされる・・・・・・謝罪をしなければ・・・・・・吊るされる・・・・・・ッ!
さにすと
とりあえず落ち着け
ウヴロ
落ち着けるものか、死活問題だッ!
お前には縁のない話だろうが、ヴィエラ族の男は、師匠と兄弟子たちに逆らえない・・・・・・年上への経緯を失すれば・・・・・・死ぬ!
シューニェに誠意を見せなければ・・・・・・!
彼の好物など、教えてはもらえないだろうか!?
ワポタ
あ、あの子は気にしないと思うけど・・・・・・どうしてもって言うなら、店で売れるものを渡した方が喜ぶんじゃないかしら。
ペルペル族の知り合いから、オルコ・パチャの高地では、珍しい植物や鉱石が採れると聞いたことがあるわ。
数十年に一度しか咲かない花や、模様入りの翠玉・・・・・・。
ウヴロ
つまり「アポサカリーの稀少商品」だな!
承知した、すぐに急いで即刻調達してこよう。
さにすと、すまない・・・・・・。
すべては俺の不徳の致すところだが、この身ひとつの働きでは、不敬を埋め合わせることができないだろう。
どうか、調達に手を貸してくれないか・・・・・・!?
恩に着る!
では、調達を済ませたのち、また店で・・・・・・!
―ワポタ
よくわからないけど、若いわねぇ。
シューニェも、あの勢いにつられて踏み出してくれないかしら。
―ウヴロ
調達した商品は、シューニェに渡してくれ。
・・・・・・俺のことは気にするな。
東方で学んだドゲザなる謝罪法を実践したところだ。
シューニェ
ああ、おかえりなさい。
帰りが遅かった理由は、ウヴロから聞きましたよ。
言いたいことはいろいろとありますが・・・・・・せっかく採ってきてくださったんです。
商品は商品として、ありがたく頂戴しましょう。
おやまあ・・・・・・。
ウヴロから渡された分も相当なものでしたが、こちらもまた、珍しい品ですねぇ。
あなたたちだから調達できたようなもので、普通はおいそれと採ってこられるものじゃありませんよ。
まったく・・・・・・。
いいですか、ウヴロ。
ワポタも言っていたと思いますが、シャトナ族の子どもは、自立するまで母親と暮らします。
必然、生きるのに必要な知識や技術は母から習うことになる。
あなたのところのような、男性同士の師弟関係や上下関係はないんです。
敬意を払ってもらえるのはありがたいですが、今さらですし、面倒なので、これまでどおりにしてください。
ウヴロ
しかし・・・・・・それでは・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・承知した。
シューニェ
なら、これでこの話はおしまいです。
商いに戻るとしましょうか。
ウヴロ
いや・・・・・・態度を改める必要がなかったとしても、お前の過去について詮索してしまったことには違いない。
無神経な真似をして、すまなかった。
シューニェ
別に・・・・・・隠していたわけでもありませんしねぇ・・・・・・。
50年前、確かに私は家族を喪い、旅をやめた。
シャトナ族にとって、死は穢れたものじゃない・・・・・・大きな巡り、自然の一環です。
どこかで受け入れて、新たな家族を探しに行くべきだった。
それでも・・・・・・私は・・・・・・家族がなぜ死んだのかもわからないまま、はいそうですかと過去にはできなかったんですよ。
ウヴロ
本当に原因がわからないのか・・・・・・?
集落がひとつ壊滅したほどの、大事件なのに・・・・・・。
シューニェ
集落といっても、住居は片手で数えられるほど。
最寄りの村に行くにも山をふたつ越えるような、辺境の地でしたから・・・・・・。
そこで何が起きたのか、目撃した者はいなかった。
大地まで抉れるほどの破壊ぶりは、およそ賊の仕業と思えず、トラルヴィドラールが出たんじゃないかと言われました。
ですが、私は最寄りの村で聞いたんです。
事が発覚する数日前に、昼間でもはっきりとわかるほど眩い、一条の光が空を流れていったと。
それは山間に消え、直後、地が震える音がした。
山も樹々もざわめき、風に乗って粉塵がやってきた・・・・・・と。
さにすと
・・・・・・もしかして、隕石?
シューニェ
はい、私もそう考えています。
集落を破壊したのは・・・・・・落下した隕石かもしれない、と。
とはいえ、それもまた憶測にすぎません。
断定できるだけの証拠が、あるようで、ないんです。
・・・・・・少しお待ちを。
ウヴロ
これは・・・・・・?
シューニェ
集落があった場所に落ちていたものです。
点々と・・・・・・まるで花びらをまき散らすように・・・・・・。
だから私は、「蒼碧の花弁」と呼んでいます。
長年この商いを続けてきた結果、これがどういうものなのか、ある程度は推測ができている・・・・・・。
集落が本当に隕石によって破壊されたのだとすれば、この「花弁」の存在こそが、証拠となるはずなんです。
・・・・・・と考えているものの、これが推測どおりの物質なのか、いまだに裏付けが取れていません。
なんでもいいから答えがほしいと思って、こじつけようとしているだけかもしれませんねぇ。
本当に・・・・・・救いがたい・・・・・・・・・・・・。
―ウヴロ
・・・・・・俺は従業員として、やるべき仕事をこなす。
今はただ、それだけだ。
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