「海山川を乗り越えて」
シューニェ
ああ、さにすと。
調達の仕事を手伝いに・・・・・・。
ありがとうございます。
優秀な調達役がひとり増えると、大助かりです。
さにすと
ウヴロは順調に働けてる?
シューニェ
はい、これが意外なほどに問題なく、しいて言えば、本当に素寒貧で、宿代すら持っていなかったのには困りました。
野宿は得意だから気にするなと言われたんですが、雇った手前、そうもいかないでしょう?
結局、うちに居候させてるんですよ。
・・・・・・彼、向こう見ずなところはありますけど、基本的にはキッチリしてますねぇ。
整理整頓、時間厳守、連絡だって怠らない。
お師匠さんたちと暮らしていたというから、その影響でしょうか・・・・・・?
対してシャトナの男は、独りで行動する時間が長いせいか、私も含めてマイペースな奴が多くって・・・・・・彼の律義さを新鮮に感じてますよ。
ウヴロ
仕事の話か?
シューニャ
ええ、そんなところです。
ウヴロ、在庫の確認が終わったなら、さにすとと一緒に調達に行ってもらえますか?
ウヴロ
よろしく頼む。
同輩とともに仕事にあたれるのは、とても心強い。
シューニェ
では、改めて・・・・・・。
今回調達してもらいたいのは、「アポサカリーのまじない用品」です。
具体的には、強い浄化の力を持つとされる香木。
それから、ヨカ・トラルで特に重宝されている霊石・・・・・・紫水晶を集めていただきたく。
どちらも部族によって多少扱い方は異なるものの、心身に溜まった悪しきものを取り除いたり、魔除けにしたりといった用途で使われています。
ウヴロ
なるほど、健やかさを保つのは薬ばかりではないか・・・・・・。
ということは、そこに並べられている品々にも、何らかの力があるのか・・・・・・?
一応、謂れのあるものを選んでいますよ。
ただ、何を良しとするかは人それぞれですからねぇ。
効果の有無ではなく、ただ美しいと感じて買っていかれる方もいますし、私もそれでいいと思っています。
ウヴロ
扱う品が雑多になるのも道理だな。
自分で各地に出向いて商品を探したりも・・・・・・?
シューニェ
いえ、それは・・・・・・。
あなたたちを頼るほかは、なじみの卸売商から仕入れるくらいです。
店を空けるわけにもいきませんし、私はあまり・・・・・・街の外には・・・・・・。
・・・・・・さ、そろそろ出発をお願いします。
「アポサカリーのまじない用品」は、コザマル・カの北部で採集できますので。
できるだけ良好な状態のものを頼みますよ。
ウヴロ
俺は香木と紫水晶の両方を採ってこよう。
お前はどちらでも、都合のいい方で進めてくれ。
―シューニェ
「アポサカリーのまじない用品」の蝶帯をお願い思案す。
コザマル・カの北部、つまりオック・ハヌ方面で、採ることができるはずですよ。
シューニェ
おやまあ・・・・・・なんて見事な・・・・・・。
ありがとうございます。
このままの良好な状態を保てるよう、細心の注意を払いながら検品しましょう。
すべて問題ないことが確認できました。
改めて、おつかれさまです。
前回といい、ずいぶんと手慣れた仕事ぶりですが、ほかでもこういった依頼を・・・・・・?
ウヴロ
戻ったぞ。
香木と紫水晶・・・・・・これで足りるか確認してくれ。
シューニェ
おかえりなさい。
どれ、拝見しましょう。
おや・・・・・・?
香木も商品としての基準を満たしてはいますが、紫水晶については、特級品と呼べるほどですよ。
いい鉱脈でも見つけましたか?
ウヴロ
石を見分けるのは得意なんだ。
俺の故郷はスカテイ山脈の高地、雪と岩ばかりの場所だからな。
一見すると似たような石の中に、力を秘めたものがある。
俺たちはそれを、山に還った祖先の魂の断片と考え、御守りとして持ち歩くんだ。
シューニュ
スカテイ山脈・・・・・・その話からして、かなり高い山々だとはわかりますが・・・・・・。
ウヴロ
そうか、トラル大陸の住民には馴染みがない場所だな。
さにすと、地図を持ってるか?
よければ、それを見ながら話をさせてくれ。
ここが、スカテイ山脈だ。
東州オサード小大陸の中南部・・・・・・永久焦土ザ・バーンと、旧ダルマスカ王国領の境目にあたる山々だな。
ここには、ヴィナ・ヴィエラ族の里が点在している。
俺の出身地「クグマの里」も、そのうちのひとつだ。
ほかのヴィエラ族の里と同じで、女たちが集落を切り盛りし、男たちがそれを外から護る。
凍てついた厳しい土地ではあるが、古くから受け継がれてきた狩猟採集の技術によって、生活は成り立っていたんだ・・・・・・。
だが、ガレマール帝国が台頭してきた。
里が直接侵略されることはなかったが、周辺諸国が次々と呑み込まれたとあらば、他人事じゃない。
里長たちは、しばらくの間、より厳重に外界との交流を断つことで里を護っていたものの・・・・・・それでは根本的な解決にならないという声も上がっていた。
そこで数年前に、里を出て知見を得る役目を立てることになったんだ。
世界の情勢はもちろん、よその人々が今の時代をどう生きているか、里の存続に役立つ情報はないか・・・・・・広く知り、持ち帰る役目。
シューニェ
もしや、あなたが・・・・・・?
ウヴロ
俺の姓、ガーイェウェスフは雲を示す号。
里のために世界を流浪する、まさしく雲というわけだ。
シューニェ
なら、シャトナ族について知りたいというのも・・・・・・・?
ウヴロ
ああ、その暮らしぶりから、何か里に有益な学びが得られないかと思ってな。
聞くところによれば、シャトナ族とヴィエラ族の生物的な特徴は等しい。
多くの多種族より長命で、男女比に大きな偏りがある・・・・・・。
そういう者同士だからこそ、知りたいんだ。
お前たちがこの大陸で、どんな風に生きてきたのかを。
っと・・・・・・俺の話ばかり、長々と悪かったな。
地図も助かった、ありがとう。
さにすと
里を大事にしてるのが伝わってきた。
ウヴロ
里のみんなは、俺にとって家族そのものだからな。
あいつらのためなら、どんな困難だって乗り越えられる。
シューニェ
家族・・・・・・・・・・・・。
ああ、いえ・・・・・・貴重なお話ありがとうございました。
さにすと、よければまた、手の空いたときにでも手伝いにきてくださいね。
―ウヴロ
里に危険を及ぼしかねない情報を掴んだときには、すぐに帰郷している。
そうでもない限りは、おおよそ2年に一度だな。
なにせ陸路も空路も、転送網だって整備されていない土地だ。
頻繁に戻っていては、学ぶことに時間や労力を割けない・・・・・・何より、旅費がかかりすぎる。
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